近年、ビジネスや教育、医療・福祉など多様な現場で注目を集めているアクティブリスニング。
よく「傾聴」と混同されがちですが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
本記事では、アクティブリスニングと傾聴の違いに焦点を当て、それぞれの意味やメリット、そして実践方法をわかりやすく解説します。
目次
アクティブリスニング(積極的傾聴)とは
単に相手の話を「聞く」だけでなく、積極的に理解・共感を示しながら聴き手と話し手が協力して対話を深めていく技法を指します。
もともとはアメリカの心理学者カール・ロジャーズが1950年代に提唱したカウンセリング技法ですが、現代ではビジネスや教育、医療・福祉の現場など、さまざまな場面で取り入れられています。
アクティブリスニングが生まれた背景
- カウンセリングやコーチングの現場 クライアントが自ら問題解決できるよう促すためのコミュニケーション手法として発展
- ビジネス現場 管理職やリーダーが部下の本音を引き出し、組織の円滑なコミュニケーションを生み出すために注目
2. 傾聴とは
一方、傾聴は相手の話に耳を傾け、理解しようとする姿勢全般を指します。
日本語圏では「相手の話をしっかり聞く」といった意味合いで比較的広く使われています。
ただし**「傾聴力」という言葉で論じられる場合、受動的な聴き方だけではなく、相槌や要約を含めた「話し手を尊重する」**高度な聴き方として解説されるケースも増えてきました。
3. アクティブリスニングと傾聴の違い
両者とも「相手の話を聞く」点では共通ですが、「積極性(能動性)」の度合いに大きな違いがあるとされます。
傾聴
- 相手に寄り添い、話を遮らず、受動的に聞く姿勢
- 「うなずき」や「相槌」などで話し手を尊重し、理解に努める
- 時には、相手のペースを優先し、こちらから介入しないことも含まれる
アクティブリスニング(積極的傾聴)
- 相手の感情や考えに共感を示しながらも、要約や質問など能動的に働きかける
- 「受け取る」だけでなく、話し手が思考を整理しやすくなるようサポートする
- 相手が問題や感情の根本的な部分に気づく手助けをする
ポイント
傾聴の中にもアクティブな要素を含む場合があるため、「傾聴力」と「アクティブリスニング」はほぼ同じ意味合いで使われることもあります。
4. アクティブリスニングが注目されている背景
1. 働き方の変化
リモートワークや多様な働き方が普及し、職場でのコミュニケーションの重要度がさらに増しています。
オンライン会議でも丁寧に相手の話を聴くスキルが求められるため、アクティブリスニングが注目されるようになりました。
2. ハラスメント対策
職場でのパワハラ・セクハラなどを防止し、心理的安全性を確保するためにも、相手の言葉に耳を傾ける文化づくりが欠かせません。
3. マネジメント力強化
上司やリーダーが部下の本音や課題を聞き出し、信頼関係を構築するためのスキルとして、アクティブリスニングは注目されています。
5. アクティブリスニングの3つの基本原則
アクティブリスニングの提唱者であるカール・ロジャーズは、3つを重視しています。
- 共感的理解
- 話し手の立場や感情に寄り添い、**「分かってあげよう」**とする姿勢を持つ
- 「それは大変だったね」「つらかったんだね」と型通りに言うのではなく、相手の感情を一緒に味わうイメージ
- 無条件の肯定的関心
- 相手の考えや感じ方を良し悪しではなく、そのまま認める
- 「自分と違う価値観」や「違和感のある意見」に対しても否定から入らず、背景を理解しようとする
- 自己一致
- 自分の理解や感情に嘘をつかない
- 分からない点や疑問は素直に尋ね、「分かったふり」をしない
- 話し手も「分かっていないのに分かったふりをされる」より、正直に聞き返してもらうほうが安心感を得られる
6. アクティブリスニングのメリット・デメリット
アクティブリスニングのメリット
- 良好な人間関係の構築
- 相手が「自分を大切に扱ってくれている」と感じやすくなる
- 部下や同僚との信頼関係強化につながる
- 対立の解消や問題の早期発見
- しっかり話を聴くことで、トラブルの早期解決や深刻化の予防が可能
- ハラスメント防止・トラブル発見にも寄与する
- 話し手の自己理解・問題解決力向上
- 話すことで思考が整理され、自ら解決策を見出すことも多い
- 「どうしたらいいんだろう?」という状態から自主性を高める効果がある
デメリット(注意点)
- 聴き手への精神的負荷が大きい
- 話し手に感情移入しすぎると、自分自身の気持ちも乱れやすい
- 相手の問題を解決できるわけではないため、モヤモヤを抱えやすい
- 解決策の提示には向かない
- アクティブリスニングはあくまで相手の内面を引き出すサポートであり聴き手から積極的に解決案を出す手法ではない
- 上司・同僚との会話の場合、状況によってはアドバイスが必要な場面もあり、使いどころを考える必要がある
- 習得には時間と訓練が必要
- 「相槌」「要約」「質問」を的確に行うにはトレーニングが必要
- スキル不足のまま行うと、「質問攻め」「自分語り」になってしまう可能性がある
7. アクティブリスニングを高めるための心構え
- 偏見や先入観を排除する
- 「どうせ○○だろう」「そんな意見はおかしい」という固定観念は禁物
- 相手の立場に立ってニュートラルに聞く
- 結論や評価を急がない
- 「それは違う」「あなたが悪い」など、否定的なフィードバックをすぐ出さない
- 一度すべて受け止めてから質問や要約をする
- 相手が話しやすい雰囲気づくり
- 場合によっては、座る位置や姿勢、声のトーンにも気を配る
- 「話しかけても良い」と感じてもらえるように工夫
8. アクティブリスニングの具体的な実践方法
アクティブリスニングは大きくバーバルコミュニケーション(言語的)と、ノンバーバルコミュニケーション(非言語的)に分かれます。
詳しくみていきましょう!
バーバルコミュニケーション(言語的手法)
(1) パラフレーズ(オウム返し)
- 相手の言った内容を少し言い換えて繰り返す
- 「〇〇だと感じたんですね」「××で困っているんですね」というように要約して伝え返すことで、**「しっかり聞いてもらえている」**と安心感が高まる
(2) オープンクエスチョン
- 「Yes/No」で終わらない質問を投げかけ、相手が自分の考えを整理しやすくする
- 「どうしてそう思ったの?」「具体的にはどんな場面で?」など5W1Hを意識して問いかける
(3) 言い換えと要約
- 話し手が長く話した場合や、論点が散漫になってきたときに要約する
- 「つまり、〇〇ということですね。では□□についてはどう思いますか?」などとまとめ、次のステップへ誘導
(4) 相槌
- 「なるほど」「それは大変だね」など、こまめに声で反応する
- 無言のままだと「聞いているのか分からない」と相手が不安になる
ノンバーバルコミュニケーション(非言語的手法)
(1) 姿勢・ボディランゲージ
- 体を相手の方に向け、背筋を伸ばし、腕組みや足組みは避ける
- 「あなたに興味があります」という姿勢で示す
(2) 目線
- 適度に目を合わせる(ずっと目を見続けるのは逆効果)
- 3秒程度目を合わせたら少し外し、また目線を戻すくらいが自然
(3) 表情
- 相手が楽しそうならこちらも微笑む、悩んでいれば真剣な表情をするなど、相手に寄り添う表情を意識する
(4) ミラーリング
- 相手のしぐさや声のトーンを「鏡のように」ゆるやかに真似る
- 「自分と似た行動を取る相手」に対して人は親近感を抱きやすい
9. アクティブリスニングを習得するトレーニング方法
- 日常会話で練習する
・家族や友人との会話の中で、パラフレーズやオープンクエスチョンを意識してみる
・「どう感じた?」と相手に問いかけ、聴く時間を多めに取る
- 書籍で学ぶ
・アクティブリスニングの理論から実践まで解説した書籍を読む
・代表的な書籍には『アクティブリスニング なぜかうまくいく人の「聞く」技術』
・『アクティブ・リスニング ビジネスに役立つ傾聴術』
・『プロカウンセラーの聞く技術』などがある
- 研修やセミナーを受講する
・実際にロールプレイなどの実践練習ができるため、スキルを身につけるスピードが上がる
・企業の管理職研修やコーチング講座などでアクティブリスニングを学ぶ機会が増えている
10. 【まとめ】アクティブリスニングを取り入れて良好なコミュニケーションを
アクティブリスニングは、傾聴の中でも特に「積極的に理解しようとする姿勢」がポイントです。
相手の感情や考えを深く理解することで、信頼関係を築き、問題解決やチームワークの強化にもつながります。
- 傾聴は「受け身の聞き方」も含む幅広い概念
- アクティブリスニングは話し手と対話を深める「能動的な聞き方」
- 3原則(共感的理解・無条件の肯定的関心・自己一致)を押さえて実践してみる
ビジネスパーソンはもちろん、家庭や友人関係など、日常的に役立つコミュニケーションスキルです。
ぜひあなたもアクティブリスニングを取り入れ、「話しやすい」「聞いてくれる」と言われる存在を目指してみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。